村上春樹「風の歌を聴け」:軽快な青春ドラマか読者への挑戦か

 この作品は村上春樹の処女作ですが、案外知られていないと思います。
彼の作品の中ではかなり短いほうだと思うので、読んでみることをお勧めします。自分で解釈の方向性を探しながら読むのが好きな人向け、物事を多様な観点から考察できるという点では学生向けともいえます。軽快な口調で、青春ドラマとしても読めます。

 私にとってこの作品は、謎解きゲームのような作品です。

 例えば構成。文章の塊が1から40までの番号を与えられて配列されており、この配列の順序に関して何ら意図を見出せないのです。

 時間軸もはっきりしているようではっきりしていない、という意味でも謎解きゲームです。
作品には、1970年8月8日から8月26日の間のストーリーだと明記されています。
一方、時間の移り変わりについては、ある程度示唆されているものの、それらを辿ったところで、この日付との関連は特定できないのです。

 最も謎深いのが「デレク・ハートフィールド」という小説家です。
作品の冒頭部分で、主人公の僕に多大な影響を与えた小説家として紹介されています。
彼の小説作品からの引用もあります。あとがきのタイトルも「ハートフィールド、再び…」となっています。
彼がどのように死んで、その墓がどこにあるかも明記されています。
彼の研究家もいるのです。さらに言えば、タイトル「風の歌を聴け」と密接に関わると思われる「風」と「ある青年」の会話も、彼の作品「火星の井戸」からの引用になっているのです。
これだけの重要度を与えておきながら、実はこの作家は… なのです。これは目から鱗の衝撃でした。

 断片的な情報が積み重なって、徐々に謎が解けていくような展開でありながら、最後に肩透かしを食らわせるような、かなりとがった作品です。

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